小悪魔妹と始める、ちょっと危険な同居生活|第1章「兄貴、堕ちたら終わりだよ?」全文公開

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こんにちは、私・久遠詩凛です。ここでは、オリジナル小説『小悪魔妹と始める同居生活』の第1章を、あなたに向けて全文公開します。からかい上手な彼女と、不器用な兄の、甘くて少しだけ危険(に見えるけれど境界線は守る)日常の始まり。ゆっくりお楽しみください。

※登場人物は成人で、二人は親の再婚によってできた「義理のきょうだい」です。

scene1:鍵の音、オムライスの湯気

玄関の鍵が二回、軽く鳴って、私はいつものように「おかえり」と声をかけました。あなたは少しだけ肩を落として、革靴を脱ぎながら「ただいま」と笑います。引っ越してきて一週間。大学院生のあなたと、社会人一年目の私。二人暮らしはまだぎこちないけれど、家の中の空気は、思っていたよりすぐに馴染みました。

キッチンにはオムライスの湯気。ケチャップで「おつかれ」と書くと、あなたは頬をかきながら視線を逸らします。からかわれていると分かっても、あなたは正面から受け止めようとする。そこが少し、不器用で可愛いところです。

「味、どう?」と聞くと、あなたは真面目に咀嚼してから「うまい」とだけ。私は「そっけない」と笑って、水のグラスを足しました。食卓の会話は短くて、でも温かい。あなたがフォークを置く音すら、私には暮らしの鼓動みたいに聞こえます。

scene2:家事ルールと危険区域

同居を始める前に、私たちはノートに簡単なルールを書きました。ゴミ出しは私、風呂掃除はあなた、冷蔵庫の一番上は触らない——そこは私の実験用ハーブの棚だからです。こうして線を引くことで、安心が生まれる。私は「境界線は、仲良くするためのもの」だと信じています。

とはいえ、ルールだけで生活が回るわけでもありません。あなたが洗濯機のフィルターを外しっぱなしにして、私が小さく説教する日もあるし、私が夜更かしして、あなたに「寝不足は敵」と眉を寄せられる夜もある。そんなとき、私はたいてい冗談でごまかします。

「ねえ兄貴、堕ちたら終わりだよ?」——これは私の決まり文句。家事をサボろうとしているとき、課題を後回しにしたいとき、あるいは私を甘やかしすぎそうなあなたの表情を見たとき。軽口だけれど、合図でもあります。
その言葉に、あなたは決まってため息をついてから、まっすぐに返します。「俺は落ちない。お前も連れて行かない」。

scene3:合図は指先で

週末の夕方、雨が降りました。窓を伝う水滴をぼんやり眺めていると、あなたがコーヒーを二つ持ってきてくれます。マグカップの底がテーブルに触れる、乾いた音。私は両手で温度を確かめてから、そっと問いかけました。

「ねえ、もし私が、他の誰かに甘やかされそうになったら、どうする?」

あなたは一拍置いて、「止める」と短く答えます。私は笑って、乾杯みたいにカップを合わせました。ふざけ半分の会話の裏で、私たちは確かに支え合っている。危険な匂いを嗅ぎ分けたら、手を伸ばす準備をいつでもしておくこと。合図は、声よりも先に指先で。袖口をちょっと掴むだけで、あなたは必ず振り向くから。

夜、私がプレゼン資料を作っていると、あなたはホワイトボードに数式を書きながら、時々こちらを気にします。黙っていても、視線の角度で気持ちが分かる。私は肩を回して背伸びして、椅子のキャスターを滑らせ、あなたの机の端にコツンとぶつけました。無言の「休憩しよ?」。あなたは消しゴムを置いて、私のカップにお湯を継ぎ足す。そんな小さな反復が、私たちの安心です。

scene4:夜の取引

寝る前、私は明日の弁当の下ごしらえをしながら、あなたに提案します。「ねえ兄貴、取引しない? 私、明日ちゃんと早起きする。その代わり、朝のコーヒー、あなたの担当」。

「いつも俺が淹れてるだろ」とあなたは言いながら、口元は緩んでいます。私はニヤリと笑って、ケチャップで小さなハートを描きました。からかいは、線を越えない範囲で。甘さは、眠気がほどけるくらいだけ少しだけ。

「兄貴、堕ちたら終わりだよ?」と、私は今日も念押しします。あなたは照れた顔で「分かってる」と返し、背中を向けてキッチンの照明を落としました。
廊下の灯りが一つだけ残って、つま先が床を読むように歩く。扉が閉まる直前、あなたは振り返って、小さな声で言いました。「おやすみ」。私は同じくらい小さな声で、「おやすみ、また明日」。

危険に見える距離感を、私たちはいつも「合図」と「確認」で乗りこなす。堕ちないために——そして、ちゃんと進むために。新しい生活はまだ始まったばかりです。

次回予告

第2章は「朝のコーヒーと、一本のメッセージ」。二人のルールに、外から小さな波が差し込みます。更新通知を受け取りたい方は、ページ下部のフォローからどうぞ。

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